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樹体凍害と対策

 本栽培で利用されているМ.9ナガノ台木は、わい化効果、生産効率が優れるが、凍害に対して十分な対策が必要である。

 

1 凍害の発生条件

 

 凍害は、植物が限界温度を超えて冷却され、凍結、枯死することにより発生する。リンゴ樹は、-28~-29℃程度にでも耐えられるといわれているが、これより高い温度でも凍害は発生している。これは、植物が低温による凍結に耐える能力、耐凍性が季節によって変動し(図1)、耐凍性を超える低温に遭遇した時点で凍害が発生するためである。秋、気温の低下に伴ってリンゴ樹は徐々に耐凍性を増し(ハードニング)、1~2月の厳寒期には最大の耐凍性を示す。一方、自発休眠覚醒(リンゴは1月中下旬)後は、気温の上昇とともに徐々に耐凍性は低下する(デハードニング)。初冬期の急激な冷え込みや初春の寒の戻りがあったとき、耐凍性を超える低温に遭遇すると凍害が発生する。

2 凍害発生を助長する環境要因

 

 ①2~3月頃の気温が高めの年は、デハードニングが早まり、その後再び気温が下がった場合に、凍害の被害が大きくなりやすい。

 

 ②排水不良園や有効土層の浅い園地では、凍害が問題となることが多い。このような園地では、生育期間中の過湿や乾燥によって、樹勢が不安定となりやすく、冬期の耐凍性が劣ることがある。また、春先に土壌が過湿となる場合(雪解け水等)、吸水が早く、発芽不良や凍害の発生しやすいことがある。

 

 ③地表面近くは夜間の温度低下が激しい。一方、日中の温度上昇は急である。そのため、積雪がない場合、主幹の地際近くや接木部周辺に、凍害が発生しやすい。積雪がある場合は、雪面付近より上に凍害を受けることもある。

凍害 苗木.jpg

3 凍害発生に影響する樹体側の要因

 

 ①台木の種類によって耐凍性が異なる。M系台木においては、М.26台木が凍害に強く、М.9台木は中程度とされる。М.9ナガノ台木の耐凍性は、ほかのМ.9台木系統と概ね同等である。一方、JM7台木はМ.9ナガノ台木やほかのМ.9台木系統に比べて凍害に強い。

 

 ②果樹では、樹齢によって耐凍性が異なることが知られる。3年生頃までの若木と結実が始まる頃が最も弱いとされる。

 

 ③成木の主幹の基部付近は、ハードニングが最も遅く凍害を受けやすい。

 

 ④掘り上げた苗木は、部位によって耐凍性が異なる(図2)。根部が最も低温に弱く、次いで台木地下部、台木地上部の順に弱い。台木の地上部と地下部では、耐凍性に著しい差異がある。掘り上げ前の台木地下部は、低温にさらされる機会が少なく、ハードニングが浅いと考えられる。

 

 ⑤生育期間中、徒長的であった場合には秋期の耐凍性の増大が遅れることにより厳寒期の耐凍性が低く、春期の耐凍性の低下が早いとされる。一方、弱樹勢であった場合には、秋期の耐凍性の増大が早いものの、厳寒期の耐凍性は低く、春期の耐凍性の低下が早いといわれている。                                             

4 凍害への対策

 

 ①排水対策

  

 排水不良園では生育不良であるばかりでなく、凍害の発生が助長される。凍害は水が引き金となっていることには間違いない。よって、園全体の排水対策(明渠・暗渠)を施すことはもちろんのこと、樹勢維持するためには、肥料も重要である。また、近年ゲリラ豪雨等により予期せぬ大雨に見舞われることが多々あるため、根部に滞水することがないようライズベットにて定植することは最低おこなう事項でもある。(フェザー苗の植付の頁参照)

 

 ②主幹部の保護

 

 主幹部に白塗剤を塗布すると、晴天時の日中では無処理に比べて最大10℃程度温度上昇が抑制することができる。このため、主幹部の地際部から接木部に白塗剤を塗布して局部的な温度上昇を防ぐことで、春先に接木部付近の耐凍性の低下を遅らせ凍害を回避または軽減することができる。塗布は厳寒期までに行い、粗皮が剝げるようになる概ね3~4年目頃まで行う。

  稲ワラを地際部にあてることでも代用できる。稲ワラを巻くことは、決して樹を温めるのではなく白塗剤同様温度を上げさせないためである。よって、稲わらは南~西側が陽に当たらないようにすることが肝心である。

 

 ③樹体の健全育成

  

 軟弱徒長樹、強勢樹、二次新梢が多い樹などでは健全な樹と比べ耐凍性が低く、凍害を受けやすい。逆に弱樹勢でも樹体内の貯蔵養分が少ないため耐凍性が低い。

  また苗木定植後、初結実(収穫)したその越冬時に凍害に遭うケースが多く、貯蔵養分を増加させておくことは重要で、礼肥施用は欠かせない。

              「平成19年新わい化栽培マニュアル」より一部抜粋、一部改

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