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土壌管理と肥料

 高原野菜地帯を見渡すとレタスやハクサイなど葉ものが一面に広がる。そのどのほ場をとっても大差はなく、誰と云わずに品質の高い、しかも揃った野菜が獲れている。また葉ものに限らず、果菜類のトマトやキュウリでも同じことがいえる。一方、県下のリンゴ地帯はというと、園の構造はバラバラで、かつ同じ台木でスタートしても数年も経てば樹形・樹相は全部異なり、人によって狙いが逆方向へ行く人もしばしばだ。「果樹だから野菜とはちがう!」「果樹ってそういうものだ!」ですべて片付けられている。

 イタリア南チロル地方を視察した折、18,000ヘクタールのリンゴ園(その他ワインぶどうも含め)が同一システムで構成され、約150㎞の渓谷に永遠と続く風景には目からウロコであった。ここで疑問?

 野菜における樹勢ならぬ草勢のコントロールは何か?18,000ヘクタールの園地は土目も違う、いや同じはずがない中で、どうコントロールしているのかだ。日本との違いは、気象的なことはもとよりだが、水田跡地利用はないことくらいだ。かつて、南チロル地方は実生台を利用し喬木が作られており、その時代は、樹(果実品質)は決して揃ってはいなかった。わい性台木を利用することにより栽培も進化し、今やフェザー苗利用により高密植することが当たり前となっている。高密植栽培において劇的に変わったものの1つは、「せん定」である。誰が行っても同じ樹形になるといった画期的なものであり、これも技術だ。もう1つは、施肥コントロールである。一糸乱れず栽培されている野菜と似た姿をつくることがこの栽培では可能になったことである。日本におけるマルバ等利用の疎植栽培(従来型わい化栽培も含む)では、せん定技術によるしかも誰も真似できない高等技術で組み立てられ良質花芽をつくっている。一方、M.9は特にチッソ反応が良く、そのチッソを主体とした施肥コントロールで花芽分化を促すことが可能であるため、高等なせん定は技術必要ではなくなった。

 

 

1 土壌酸度 (pH)

  リンゴの好適pHは、5.5~6.5といわれている。かつて水田転作をはじめ、わい化栽培が盛んに植えられた時代(昭和40~50年代)には、わい化栽培にするといえば、まずは植付する列を重機で30~40㎝ほど掘り、土壌検査もせず(pHだけでも測れば大したもの)、堆肥(粗大ごみも含め)、石灰、ようりんをそれぞれ200~300㎏投入し土壌改良が完了だった。

 今日、高密植で植える予定園地を土壌改良しているところなど見たこともない。改植園では前作ものを伐根し、整地してお仕舞いというのが現状だ。また、かつてのように深耕して奥深くから痩せた土を表面に出すのならやらない方がいいだろう。

ただ、県下事例の中で弱樹勢の園が散見される。原因は着果過多、肥料(特にN)不足などがあげられるが、もう一つは土壌酸度が低く、かなり酸性に振れていることも無視できないのではないか。

 冒頭の5.5~6.5という値は、日本にリンゴが輸入されまだ≒100年、そんな簡単には好適pHなんぞわかるはずもない思うし、この数字ってマルバカイドウのデータではないかと。М.9台木は、マルバカイドウとは原産地も全く真逆な気候で、乾燥地帯の生まれだけに、好適pHはもう少し違う値のところに分布しているのではないかと。 ⇒ フェザー苗木を養成してみるとわかることだが、6.5~7.0くらいの方が明らかに生長は良好である。

2 窒素(N)

  窒素はたんぱく質の元となる元素であり、光合成に欠かせない葉緑素(クロロフィル)も窒素によって作られるため、窒素は植物にとっても重要な存在である。不足すると葉や茎の成長が鈍くなる。葉の大きさも小ぶりになったり色が薄くなったり、成長が悪くなって伸び悩んでしまう。多くの必須元素の内、1番シャープに反応するのが窒素である。

 ○欠乏症状

  小玉果 変形果 サビ果の多発 着色遅れ 凍害の発生 枯死

 ○施用量と時期

  イタリアでは、「発芽期に樹体内の窒素レベルをトップにもっていく」 という施肥体系である。

 

  ①秋肥(礼肥)  貯蔵養分の増加させる

      従来の元肥という考えはやめる。ただし、有機質やミネラルの補給ということでは、11月ふじ収穫後の時期には施用

   即効性のN-P-Kの3要素が入った肥料で対応。

  ②春肥      2月末~3月上旬  

 

   *春肥は吸収効率が極めて高いため、秋肥の30~40%を減肥する。過剰になると、着色遅れやビターピットなどの生理障害につながる。

  ③開花以降の施肥

   5月いっぱいには施肥をする。平年で、5月末には新梢伸長が95%くらい停止するので、その早晩で加減する。

3 カリウム(K)

  意外にカリウムの欠乏症が多い。果そう葉や新梢の基部葉の縁から枯れこむ。生育不良となるものもある。

   

4 苦土(Mg)

    本栽培では窒素とともに欠乏しやすい元素。欠乏すると新梢の基部葉から斑点落葉病又は褐斑病に極めて類似した症状を発し、症状が進むと黄変して激しく落葉する。発生は5月下旬から6月上旬で、激しい場合は、7月以降も続く。本症状は、結実の少ない新梢伸長が旺盛な若木に多い。

  品種間格差が大きく、特に「千秋」を片親にもつ品種に発生が多い。 「シナノドルチェ」 「シナノリップ」 「シナノゴールド」 「秋映」

  発生を確認したら、アクアマグ500~600倍を1~2回散布する。(農薬混用可)

  

  予防では、定期防除にグリーントップ70 500倍を混用する。毎年、苦土を施用する。

5 有機質

  

  果実の収穫量が従来の2~3倍あり、その果実を園外へ持ち出すため、園は確実に痩せる。それを、配合肥料のみで補うことは無理である。

  ミネラル補給の観点からも、優良な堆肥、ケイフン等は投入して地力増進をはかる。

6  その他

  近年、経営面積の規模拡大とともに機械化が進み、配合肥料や発酵ケイフンをブロードキャスター等で施用する農家が増えている。そこで、機械散布による施用量はどうしたらいいのか。わい化栽培といえども、根域は園全体にあることから、園地全体の肥料レベルを上げる観点から全面施用で行い、特段施用量を増やすことはないとのことである。(元肥、追肥ともに) ⇒ 部分(畝間)草生の場合、草のほけ方も尋常ではないくらいであるが、刈られた草はいずれ無機化し土壌に還元される。

                                                   

                                              <JA長野県営農センター、全農長野生産振興課 指導会資料より>

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