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イタリアにおける果樹の品種登録

  イタリアは、植物新品種保護国際同盟・UPOV(INTERNATIONAL UNION FOR THE PROTECTION OF NEW VARIETIES OF PLANTS)の加盟国。UPOVとは、1968年に発効した条約により設立され、加盟国は50ヶ国(2001年12月7日現在)で、植物の新品種の育成者の権利保護により新品種の育成や普及を図ることを目的とした国際同盟である。イタリアは1961年10月2日に著名、UPOV 条約に1991年当初から加入。

欧州品種庁・CPVO(COMMUNITY PLANT VARIETY OFFICE)による品種登録

  欧州圏内(27カ国)に適用される農作物の権利保護のための品種登録は、欧州品種庁と呼ばれるCPVO(COMMUNITY PLANT VARIETY OFFICE、1995年4月27日から活動)が担っている。 CPVOは申請に基づき世界各国で育成された新品種の欧州圏内での登録許諾を行っている。登録品種は育成者権が保護される。登録品種の繁殖利用の例外として条項は以下の通りである。

 Article 15 Limitation of the effects of Community plant variety rights  登録品種の権利制限

 The Community plant variety rights shall not extend to: 以下の場合には権利が摘要されない

 (a) acts done privately and for non-commercial purposes;(個人利用で、経済行為-栽培-目的以外の利用)

 (b) acts done for experimental purposes;(試験研究目的の利用)

 (c) acts done for the purpose of breeding, or discovering and developing other varieties;(育種目的の利用)

 このように、日本の果樹種苗法で許可されている登録品種の購入苗木から農家が自己増殖して栽培に利用する行為は、CPVOでは上記の経済行為としての利用と判断されて権利侵害となる。

登録品種(CPVO・欧州品種庁の登録品種)の育成者権の侵害と罰則

  CPVO・欧州品種庁は申請された品種の審査と登録を行う。品種登録には、権利の保護に関する規程が含まれるが、権利侵害に伴う具体的な罰則は記載されていない。登録品種の違法な繁殖、譲渡、販売行為などは品種育成者権(Civil right 公民権)の侵害であり、訴訟と裁判の判決によって罰則が科せられる。

苗木の認証制度

イタリアで生産される果樹苗木は、公的機関と果樹種苗認証機関(CIVI-Italia)の協力のもとに法制化された制度によって認証を受けて流通しているものが大半である。

  イタリアにおける果樹苗木の認証制度の詳細は以下の通りである。

(1)正確で健全な苗木の育成を保証する制度

  EU政府は、品種の正確性、ウイルス、ファイトプラズマ(マイコプラズマの一種)、ウイロイドなどへの無感染が保証された繁殖用素材を用いて健全な果樹苗木の育成と流通を図る目的でEU圏内の専門家を集めて協議し、1992年に欧州植物防疫機関(EPPO)によるEU圏内の果樹苗木認証基準(EPPOBulletin 22)を決めた。イタリア政府は、1991年に公的機関による果樹苗木の認証制度を発令(D.M.289)し、核果類、イチゴ、オリーブ、柑橘、仁果類(リンゴ、ナシなど)、クルミなどの苗木に適用した。EU各国の合意によって決められた認証基準を満たして公的に認証を受けてラベルの添付された苗木はヨーロピアンパスポートを受けた苗木と呼ばれて、EU諸国間で植物検疫を受けることなく流通できる。認証制度は、苗木がどのような材料を用いて繁殖されたかを明確化できるトレーサビリテイー(来歴保証)制度ともいえる。

 健全性の診断には検定植物を用いる生物学的診断法やELISAと呼ばれる科学的診断法などが用いられてきた。また、最近はPCRなどを用いた分子生物学的手法も導入されている。果樹苗木の認証制度と生産流通体系の確立は民間努力だけでは難しため、健全素材の育成・維持・供給を研究機関を含めた公的機関が担い、さらに公的な検査機関を設置して法制化した認証制度を確立している。健全苗木の供給体制こそ産業振興の基本という考えに基づいた制度といえる。

(2)果樹苗木認定制度と関係機関

CCP(Conservation Center for Premultiplication)

 -予備増殖素材(増殖用基本素材・中核素材)保存管理センターと略-

 中核素材と呼ばれる植物体(品種や台木)を育成、保管維持する。このことが苗木認証制度の第一ステップとなる。中核素材とは、正確な品種で病原菌(ウイルス、ウイロイド、ファイトプラズマなど)フリ-の素材である。

 CCPはISA(Institute Sperimental per L'Agrumicoltura、農業関係の研究所、各作物や地域の研究所がある)の責任のもと(研究所内にある)に設置されている。

 中核素材は隔離施設(網室装備の温室など)で鉢植え(地植を避ける)で個々に管理番号が付けられて病害虫の感染を防いで保持される。

 

PC(Premultiplication Center )

 -予備増殖センターと略-

 中核素材の予備増殖を行う。この業務は研究所も行うが、農務省によって認定された機関(PC)が担当する。CCPの隔離施設で保持された中核素材は、CP(予備増殖センター)に供給されて予備増殖に用いられる。

 

MC(Multiplication Center) 

 -増殖センターと略-

 MCとは、予備増殖された苗木商向けの中核素材(種子や穂木)の大量増殖を担う農務省から認定を受けた団体である。PCで予備繁殖された中核素材は、認定母樹としてMC(増殖センター)のほ場で大量増殖される。認証母樹の増殖には、接ぎ木、取り木、挿し木以外に組織培養法なども用いられる。屋外で大量繁殖される認証母樹は、毎年10%を抽出してウイルスとウイルス様病害の検査を受けること、他の植物(認証素材でない)とは100m以上離すこと、病害虫の発生や異品種の混入に注意しながら大量生産することなどが義務づけられる。

 細部の条件は作物によって異なり、柑橘に例をとれば1本の母樹から少なくとも1000本以上の穂木(芽数は4000以上)が毎年採取されて苗木商に販売される。

 

Nursery(苗木生産業者)

 苗木生産業者には、地域検疫認定機関による認定が必要となる。苗木生産には、MCにおいて認証母樹から大量増殖された素材(台木や接ぎ木用のほ木や種子)を購入して用いることが必要となる。生産された苗木は、地域検疫機関による検閲を受けることで配布される認証ラベルを付けて販売できる。

 苗木生産はネマトーダ汚染のないほ場を用いること、無認証の素材を用いた区とは5m以上離すことなどが義務付けられる。柑橘では、柑橘栽培園から50m以上離すことが義務づけられている。

 

苗木生産過程での規制事項、検査、認定

  苗木の認証については1993年に制定された法律(MD1993)に基づいて規制が行われる。

 中核素材の保管と予備繁殖段階における品種の真偽性や健全性の検定は、研究機関か農務省によって委託を受けて公的に認められた機関が行うことが必要となる。

 認証母樹の増殖や苗木繁殖段階での規制は、地域認定機関と認証を行う果樹種苗協会(CIVI-Italia 地域機関)が連携して行う。苗木ほ場の病害虫発生の観察と年1回以上の検査にパスした苗木に対して認証ラベルが発行される。認証済み苗木には、個々に認証ラベル(来歴・品種名・台木名・ウイルスフリー等を保証)がつけられて流通する。これらのラベルが添付された苗木はEU諸国で自由に流通することができる。

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JA長野県営農センター リンゴ高密植わい化研究会資料より引用

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