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        M.9ナガノの来歴

 

  

1.M.9の育成経緯(世界の中で)

 ①元祖は、フランスのベルサイユ宮殿

  庭園果樹のため、わい化する台木や果樹を集めたことに始まる

 ②イギリスのEast Malling(イーストモーリング)試験場が、EMプロジェクトでフランスから収集選抜しEM9とし後にM.9とした。

   ・M.1~16  ヨーロッパに古くから存在していたリンゴの台木パラダイス(Paradise)およびズーサン(Doucin) 70種以上を収集し、わい化程度により9つの形に分類公表した。(1917年)

   ・M.26   M.16×M.9の交雑実生から選抜 (1958年)

   ・M.27  M.13×M.9の交雑実生から選抜 (1971年)

 ③M.9には多くの系統があり、わい化度や発根性(繁殖性)が異なる。

  イギリス;M.9EMLA

  オランダ;M.9NAKBT337 M.9FL56

  ベルギー;M.9KL19 M.9KL29

  フランス;Pajam1(ランセブ) Pajam2(セピランド)  以上、詳細は後述

 *世界的(欧米ほか韓国でも)には、M.9NAKBT337(M.9NAKB,T337と称されることも)の利用が最も多い。但し、フランスは例外である。

   参考;フランスではなぜM.9表記を使わないのか ⇒ M.9はEM試験場がフランスから勝手に持ち出して選抜されたとされており抗議の意味もある。(と言われている)

2.長野県の動き

 長野県園芸試験場(現果樹試験場)は、昭和30年代後半に農林水産省果樹試験場盛岡支場(現果樹研究所リンゴ研究拠点)からM.9を含むわい性台木品種を導入し、昭和38年に取り木繁殖試験を開始した。

 昭和42年に品種に「スターキング」、台木にM.2、M.7、M.9を供試し、特性検定試験に着手。昭和45年には品種に「ふじ」、台木にMM106を追加した。

 この結果、昭和49年に「ふじ」「スターキング」の品種を対象にM.9台木を普及に移した。

 なお、国から導入したM.9はACLSV普通系を保毒していたため、昭和45年~46年に熱処理によりACLSV普通系フリーの個体を選抜し、「M.9(-)(マイナス)」と命名。特性検定試験を実施し、昭和53年には中間台利用法、昭和58年には台木法、中間台法、二重台木法、昭和63年には台木法について普及に移した。

 ===ACSLV保毒が原因で、中間台木として利用できず、M.26中間台が主流となった。その後、中信農業試験場に別系統のM.9(-)が導入されたため、中信地区はM.9中間台が普及した。===

 その後、M.9Aが導入され(青森県リンゴ試験場は昭和46年に導入)、ACLSVフリーであったので、全国に広まった。但し、わい化効果が劣るとみられている。 

 平成8年、「欧州における果樹わい化栽培調査」を行い、M.9台木の優位性を再確認し、「らくらく果樹栽培」として推進することとなった。その柱となるわい化栽培の基本台木を「M.9(-)」とし、長野県原種センターで増殖を図ることになったが、マイナスではイメージが良くないとのことで、「M.9ナガノ(M.9NAGANO)」と改名することとした。 

 一方、昭和50年代の後半には国が主導する「ウイルスフリー化事業」が始まり、病害虫部で多くの品目・品種のフリー化に取り組み、その中でM.9(-)も対象として、果樹試験場ほ場の各所にあるM.9(-)を採取し温熱処理を実施した。

 昭和63年にはエライザ検定、指標植物検定によりCLSV、SGV、SPV、PSBの4種類のウイルスをフリー化した幾つかの個体を獲得し、系統名にM.9naVF○○を付した。

 選抜された個体は、網室で隔離栽培すると同時に育種部で特性検定を実施。全系統について特性検定することは、ほ場条件から困難であるため、接ぎ木盛り土法で発根性が良かった系統M.9naVF157を選定し、M.9(-)、M.9B、Pajam1、Pajam2、JM7とともに「ふじ」を穂品種とした台木比較試験を実施。供試本数が少なかったため、傾向はつかめたもののはっきりとした結果は得られなかった。

  栽培部では、平成9年にオランダNAKBからM.9NAKBT337、M.9FL56を1年間の検疫を経て導入し、平成12年から「ふじ」を穂品種としたM.9ナガノ、M.9naVF157、M.9NAKBT337、M.9FL56、Pajam1のM.9系統比較試験を開始した。今のところ生育、生産性に関してM.9の系統間差は認められていない。

  また、果樹試験場病害虫土壌肥料部では、平成15~17年にかけて「根頭がん腫病の検定技術開発とフリー個体の選抜試験」を実施し、保有しているウイルスフリー個体のM.9naVF系統、マルバカイドウnaVF系統の中から根頭がんしゅ病フリー個体を選抜し増殖を図り、M.9naVF157を中心に平成20年に希望者に配布してきている。

 

   M.9台木系統について

 

 M系台木は、イギリス・イーストモーリング試験場のハットン氏らが1917年ころからヨーロッパ各地に分布する多数のリンゴ属植物を集め、栄養系台木として命名したもの。

 この台木グループはリンゴの栽培種の中から選抜された。 M.9台木には多くの系統があり、欧州では系統分類が行われ、繁殖性やわい化度の明確となった多くのM.9系統が国別に普及されている。

M.9台木の系統別わい化の程度

これまで、長野県に導入されたM.9系統は、M.9ナガノの系統、昭和40年代に米国から中信農業試験場が導入したCLSVフリーの系統、M.9A(わい化効果不足)、M.9EMLA (わい化効果不足)、M.9NAKBT337などがあり、全国の苗木商で厳密に言うとどの系統が用いられているか不明な点もある。

 ☆ 台木の書き方の変更

  イギリスのイーストモーリング試験場が次のことを公表した。(1972年ごろ)

 モーリング台木利用者の切なる願望により、台木の番号をこれまでのローマ数字での表記が多かったが、これからはすべてアラビア数字をつかうこととする。

 米国北西部に普及されているモーリング台木のうち、書き方が変わってくるのは2つだけで、EMⅨとEMⅦである。これらはモーリング№9あるいはモーリング№7と記すようになる。

 EM26とEM27だけはその後公表され、アラビア数字になっていたが、これも「EM」としないで、M.26あるいはM.27とするのが正しい書き方となる。

3.参考文献

 ・1973~ 「りんごわい化栽培ノート」 長野県経済連(現全農長野)

 ・1989.Les porte-greffe pommier,Poirier et nashi.Ctifl.

  ・小池洋男・牧田 弘・塚原一幸.1993.リンゴ樹の生育に及ぼすACLSVフリーM.9台木の影響.園学雑.62(3).499-504.

  ・1997.「らくらく果樹栽培」をめざして-ヨーロッパの果樹わい化栽培を見て-.長野県農政部

  ・1997.りんご新わい化栽培技術マニュアル.長野県うまいくだもの推進本部.

  ・1997.長野県果樹試験場50周年記念誌「成蹊」.長野県果樹試験場同窓会.

  ・1998.長野県農業試験研究一世紀記念誌.長野県.

 ・2007.りんご新わい化栽培技術マニュアル.平成19年.長野県園芸作物生産振興協議会.

 ・玉井浩・小野剛史・小川秀和・島津忠昭.2010.M.9系統とJM7を台木に用いた「ふじ」の生育比較.長野県園芸研究会第41回研究発表会講演要旨.14-15.

 ・2012 JA長野県営農センター 指導会資料

​ ・2021 JA全農長野 生産振興部 指導会資料

 

  M.9台木の繁殖法

  

   横伏せ法による取り木繁殖

  M.9台木は休眠枝挿しによる繁殖が極めて困難である。そこで、単位面積当たり大量(10a=10,000本以上)のしかも長期間にわたり収穫することが可能な、多くの国で採用されているのが横伏せ法である。

  1 ほ場の選定、準備

   ①根頭がん腫病の感染リスクを避ける観点から、バラ科作物の作付け履歴のないほ場

   ②通気性と保水性がよく、火山灰等の軽い土質のほ場

   ③有休荒廃地などを利用するとあとあと雑草対策が大変である

   ④水田転換畑を利用する場合は、排水対策に尽きる

   ⑤土壌酸度矯正は適宜行う

   ⑥有機質の投入

  2 苗木の準備と植付上の注意点

   

   ①苗木は、来歴が明確なウイルスや根頭がん腫病に感染していない「M.9自根苗」を準備する。 ⇒ マルバを補助根とする場合はマルバもクリーンなものか確認し使用する。また、実生を利用することが望ましいが、後々のヒコバエ管理を考慮するとM.9自根がベストか。

​   ②M.9台木は25~30㎝に切り揃える。 ⇒ 40~50㎝の長さで植え付けすると植え傷みが激しく活着しない事例が多い。

   ③苗木は深さ5㎝程度、フラットに近い角度(下図参照)で植え付ける。

M.9台木の横伏せ取り木
M.9台木の横伏せ取り木
M.9台木の横伏せ取り木
取り木.jpg

​取り木ほ場  定植3年目

​M.9取り木株(12年生)

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