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​イタリアのリンゴ栽培の分布

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イタリアのリンゴ栽培は、北イタリアを中心に分布している。中でもSouth Tyrol(南チロル)を主に高密植栽培が全面普及している。

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南チロルのリンゴの動向

 

    イタリアのリンゴ生産量は世界第7位(2017)の192万1000トンで生産面積は70,000haに及ぶ。中でも、南チロルはイタリア全体の26%を占め最大のリンゴ産地となっている。

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  イタリア全体の反収は35.3t/haで日本の22.2t/haを大きく上回る。

中でも、南チロル地方の平均反収は60t/ha近く、面積では青森県とほぼ同等の面積ながら生産量は大きく上回ると考えられる。

しかし、1960年代以前は20t/haと現在の日本の収量と同等の収量しか上がらず苦しい経営状況であったと聞く。

南チロル地方における高密植栽培の変遷

 

  1960年代、大樹疎植栽培による収量性に低さや作業の非効率性などが大きな問題となっていた。その頃から、M7やMM106といった台木を利用した半わい化栽培が導入されていた。

 1970年代に入り、M.9台木がオランダから導入され、密植によるスレンダースピンドルへの取組が始まった。導入された当初は、樹勢が弱くトマトのような樹の姿を見て、批判的な意見が多く思うように普及が進まなかったと聞く。

 関係者・関係機関の努力と早期高反収のモデル圃の成果により、その後密植栽培は急速に拡大をした。(図1)

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図1

 本格的な導入拡大は、1969年の取組当初から数年間は足踏み状態が続き、10年後の1980年頃2000haとなった後、加速度的に拡大をしている。(図1)

 1970年頃の疎植栽培当時は、27t/haの反収、現在では60t/haとなり倍以上の伸びとなっている。(図2)

ヨーロッパでは1980頃から品質の悪い中国産りんごが大量に輸入され、価格は大幅に下落し、その傾向は現在も続いている。(図3)

仮に、密植栽培への転換が図られなければ、南チロルを含め壊滅的な打撃を受けていたと推測がされる。

現在の南チロルの10a当り販売額は336,000円(反収6t・単価40€約56円)であり、仮に1970年当事の栽培方法・反収であったと仮定した場合には、158,000円程度となり、この栽培方法に転換できたことは農家経営に大きく貢献したといえる。(図4)

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図2

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​図3

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図4

南チロルのりんご産業を支える各機関の役割と有機的な連携

 

 南チロルのリンゴ産業の発展・栽培方式の転換にあたり、州政府を始めとした関係機関の果たしている役割が大きく、それぞれの機関の有機的に連携により、この地方の果樹産業を支えている。

 

  トレンティーノ=アルト・アディジェ自治州

 

 南チロルの労働者の内、農家の割合は1割である。(工業27%サービス業63%)

州政府は、リンゴ・ワインブドウを始めとした農業振興に力を入れており、税制面でも農家は優遇をされている。これは、同地方のもうひとつの重要産業である観光振興を行うため、果樹園などを含めた景観を維持することにつながる。ひとつの例として、防雹ネットの色などは景観を損なわないようにするため、黒・灰色に制限され、白色など遮光などの効果が高い資材でも使用することができない。また、季節労働者としてチェコ、ポーランドなどから約5万人の労働者が雇用されているが、国外の労働者の管理も州政府が行っている。

 

  COOP(協同組合)とVOG・VI.P(連合体組織)

 

 この地域の農業はリンゴ・ワインブドウ・畜産を含め、販売のほとんどを協同組合組織が担っている。南チロルの果樹生産者は他のEU諸国に比べ零細であり、大消費地との距離もあることも結集が高い要因となっている。現在、リンゴの協同組合の扱いは95%以上であり、その役割は大きい。

VOG・VI.Pの2つの連合体組織があり、各地区に設立された32のCOOPが標高ごとに結集をしている。しかし、1970頃前述の生産性の低さに加え、販売面では生産者個々が販売を行っており、思うような販売ができないことと販売コスト高が課題であった。

各地区のCOOPがウォーターダンバー方式による選果場を整備し、COOPへの販売集約が進んでいった。この地域の生産者は「収穫を行い選果場に持ち込めばそれで作業が終わるから非常に楽だ」との話しを聞く。COOPによって集荷体制が整い、一方で販売に対して大きな責任を負っている。

 また、生産者はCOOPを利用するに当り、権利と義務を十分に認識しており、このことがCOOP組織の運営の安定につながっている。

COOPは集荷し選別荷造りを行う機能を担い、VOG・VI.Pの2つの連合体は各COOPに集荷されたりんごをEU全体及び世界に売り込みを行う販売機能を担っている。

EUには日本のような卸売市場の仕組みはなく、量販店やレストラン・加工業者など連合体の職員が直接商談し販売を進めている。(図5)

EUの青果物市場     (図5)

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 リンゴはCA貯蔵や1MCPなどにより長期貯蔵され、出荷の都度冷蔵庫から出庫し荷造りが行われた上で周年出荷がされている。このことは、施設の周年利用による施設償却の軽減や雇用確保の安定につながっており効率的な運営が行われている。

 VOG・VI.PはSK-Sudtyrol(南チロル品種革新連合体)に出資し、この地域の品種戦略の構築を進めている。

 SK-Sudtyrol(南チロル品種革新連合体)

 VOG・VI.Pの出資により州政府の協力を得ながら運営を行っていて、世界中の品種の中から、生産性・商品性・貯蔵性などを検証し有望な品種を選択し、普及推進を行っている。

 品種適応試験については、州立ラインバーグ試験場と連携をし、栽培上の特性とこの地域での適応性の検証をしている。

 商品性については、外部の調査会社に委託をし、大規模な市場調査・消費者の調査などを経て総合的な評価を行う。このような経過を辿り、導入を進める場合はSK-Sudtyrolが相手先との交渉・契約の締結の事務を行う。

長野県の「シナノゴールド」もこうした経過により、VOG・VI.P及びSK-Sudtyrolが「yello ®」として契約の締結を行った。

南チロルで栽培されている「yello」シナノゴールド
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10a当り16トンの収量を見込む園地 品種はピンクレディ
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​防雹ネットの設置状況
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  州立ラインバーグ試験場

 

 州立の果樹試験場で州予算により運営がされていて、南チロルにおける果樹の技術の開発・普及の中心的な役割を担っている。

また、世界各地のりんご品種の適応試験や技術の確立などを行っている。生産者圃場の土壌分析についても試験場で実施している。

 普及センター

 

 生産者への技術指導を担っており、病害虫などのアドバイス・気象情報などの提供などメニュー方式となっている。運営経費は50%を州政府からの助成、残りを指導を受ける生産者の負担により運営がされている。従って、日本で公的機関の普及センターとは若干違う組織である。

 生産者の負担は一律ではないが、ブドウ+リンゴ=3~5ha(この地方の平均規模)生産者で年間500€である。(年70,000円程度)

施肥指導は試験場で実施する土壌検査結果と普及センターが行う葉分析(有料)に基づき行っている。

南チロルの関係機関の連携イメージ     図8
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EU政府からの助成

 

 EUでは戸別所得保証により生産者の保護が行われている。南チロルでは戸別所得保証の補助金は生産者には直接支払われず、COOPを通じ助成が行われている。EU政府は協同組合を重要視していることが、所得保証の支払いにも現れており、その他にも集荷施設に対する補助などCOOPの活動を促進する政策が講じられている。

アグリツーリズモ

 南チロルでは経営が零細であることから、農業プラス観光(民宿・農家レストランなど)のアグリツーリズモが確立されている。農家レストランでは、主人が農業を行い奥さんがレストランを営んでいるということであった。

 この地域はオーストリアと国境を接しドイツからの便も良いことから、これらの国から、トレッキングやサイクリングを目的とした観光客を多く目にした。農業収入と観光収入の比率は4:6程度ということで、アグリツーリズモが持続的な経営の大きな柱になっていることが伺える。都市部の工業の発展による農村部からの人口流出の解決策として始まった、アグリツーリズモであり、本県でも同様の現象が起きていることから多いに参考になるのではないか。

2017 JA長野県営農センター イタリア調査報告書より引用 一部改

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